
狂犬病は発症するとほぼ100%死亡する危険な動物由来感染症です。潜伏期間は通常20~60日程度で発病すると脳炎を引き起こし死に至ります。日本では撲滅していますが、野良犬の多いフィリピンでは狂犬病は風土病であり、適切な知識と予防、万が一の時の素早い対処が必要となります。
狂犬病は全ての哺乳類が感染すると考えられています。フィリピンでの主な宿主は犬ですが、猫やサル、またネズミ、コウモリなどの場合もあります。
人間が発病した時の症状は、発熱、頭痛、全身の倦怠感、嘔吐、噛まれた傷口が傷み、液体を飲むと痙攣が起きる、落ち着きがなくなる、興奮しやすくなる、筋肉の痙攣などです。

フィリピンで動物に噛まれた時
フィリピンで犬や猫などに噛まれたり、ひっ搔かれたりした場合はすぐに病院に行く必要がありますが、まずは石鹼を使い、流水で15分間以上患部を洗いましょう。この局所処置で狂犬病かかるリスクが大きく低下します。

まずは焦らず患部を洗うことが大事
その後、出来るだけ早く一番近くの病院へ行きましょう。噛まれてから最低でも24時間以内に処置をしてもらう必要があります。適切な処置をすれば万が一感染したとしても発症を防ぐことが可能です。
事前に予防接種をしていても必ず病院に行く
フィリピン渡航前に狂犬病の予防接種することはお勧めしますが、それを行ったからと言って安心してはいけません。
予防接種は発症リスクを下げる効果はありますが、100%発症しないということではありませんので、犬などの動物に噛まれたり引っかかれたりした場合は必ず暴露後ワクチン接種と言ってワクチンを連続接種する必要があります。

事前に予防接種を行っている人と、そうでない人とでは、この暴露後ワクチン接種の注射の回数が異なるだけで、対処方法は同じです。
暴露後ワクチン接種は2回(0、3日目)
暴露後ワクチン接種の回数は5~6回
(例:0、3、7、14、28日 / 0、3、7、14、30、90日)
費用
フィリピンでは基本的に各地域に狂犬病に対応した病院と施設があります。施設は「アニマルバイトトリートメントセンター(Animal Bite Treatment Center )」などと呼ばれたり様々ですが、それらの場合は基本的に無料です。
病院で処置を受ける場合は、公立か私立、またフィリピン人か外国人かで料金が異なることが多いですが、外国人の場合、暴露後ワクチン接種1回で約1,000~1,500ペソ(約2,000~3,000円)が一般的です。

料金よりも一番大事なのは出来るだけ早く処置を行うことです
狂犬病にかかっている犬の様子
狂犬病にかかった犬の症状は、一般的には狂躁時と麻痺時とに分けられます。
狂躁時は神経が過敏になっており、目が大きく見開かれ、異常な鳴き声で、牙をむき、凶暴な状態となります。そして見境なく咬みつく為、口周辺にケガをして血の混じった泡や唾液を出していることがあります。
麻痺時は頭や頸の筋肉が麻痺するため、狂躁時のような激しい症状が見られず、餌を食べることも難しい状態です。路上で静かにぐったりしている場合があります。
自分を噛んだ犬を経過観察する意味
犬や猫が狂犬病を発症しているかどうかは、しばらく観察することによって判断することが出来ます。理由は狂犬病に感染し、発症した小型動物は約2週間以内にほぼ100%死にます。
※発症から死亡するまでの期間は動物の種類や体格によって変わります。
もしあなたを噛んだ犬が、その後2週間以内に狂犬病の症状が出て死亡するようなことがあれば、あなたは感染しているリスクが高く、逆にその犬が2週間以上いつもと変わらず健康であれば感染を否定することが出来ます。この場合は暴露後ワクチン接種を中断することが出来ます。

ただ念の為、暴露後ワクチン接種は続けた方が安心
ペットでも危険
フィリピンでは飼っている犬や猫のペットには狂犬病対策として1年に1回注射を受けることが推奨されていますが、義務ではない為、安心することは出来ません。実際に多くのペットは野良犬同様、何も対策されていないことが多いです。
飼われているペットと接触し、傷を負った場合でも必ず病院に行くようにしましょう。もし飼い主が大丈夫だと言っても、不確実ですので念の為に病院へ行くことをお勧めします。
野良犬への対策と予防
狂犬病の一番の予防は動物との接触を避けることですが、野良犬も多いですので対策も重要です。
フィリピンの野良犬は基本的に人間に慣れていますので、むやみに刺激しないようにしましょう。ただ普段は大人しい野良犬も、夜から早朝にかけては数匹で集団となり吠えて向かってくることがあるので注意が必要です。
実際の対処法
では実際に興奮して吠えて近づいてくる犬へはどう対処するのかを説明します。
興奮している犬が近寄ってきたら
まずはじっとして動かないことが重要です。そして犬と直接視線を合わせないようにしながら、出来れば体の正面から少し角度をつけた斜め位置で対峙しましょう。犬が突進してくる時も同様です。犬は怯えているか、攻撃することにより自分を守ろうとしている可能性がありますので刺激しないようにし、犬が立ち去るのを待ちます。
襲ってきた場合
万が一襲ってきた場合は走って逃げても犬の方が早いですので、近くに高い場所(車の上など)があれば、そこに上りましょう。石や武器があれば犬にめがけて投げましょう。
それでも襲われてしまった場合は、両手の腕と肘を使って首と顔を覆うようにして守りましょう。
石を投げる動作
もし不意に近距離で野良犬に鉢合わせしてしまった場合は、「シッシッ!」といいながら地面の石を拾って投げるフリをすれば逃げていきます。進行方向の先に犬がいる場合にも効果的です。

ただ道路にいるほとんどの野良犬は普段は危害を加えることはないので、様子が変な野良犬以外は問題ありません。普通にゆっくり横を歩いて通り過ぎれば大丈夫です。
長期滞在の場合は事前に予防接種
仕事や英語留学などでフィリピンに長期滞在する予定の場合は、発症リスクを少しでも下げる為に、日本で狂犬病の予防接種を受けることをお勧めします。予防接種は3回接種する必要があるのと、出来る病院が限られますので、早めに調べて予定を立てましょう。

予防接種は4週間間隔で2回の皮下注射と、6~12ヵ月後の追加注射の合計3回が推奨されています。それで約3年間の免疫を確保できます。
狂犬病まとめ
- フィリピンへ渡航予定の方、特に長期滞在予定の場合は事前の予防接種を受ける
- フィリピンに着いたら動物と接触しない、野良犬、ペットにも気を付ける
- もし接触して噛まれたり引っ掻かれた時はまず15分以上石鹸と流水で洗う(初期対応)
- 出来るだけ早く、24時間以内に医療機関に行く
- もしその動物を2週間くらい観察できる状況であれば行う
- 病院では事情を説明し暴露後ワクチン接種を受ける
- 暴露後連続ワクチン接種は最後まで受けきる
英語で狂犬病は「Rabies」と言います。また狂犬病ワクチンは「Rabies vaccine / Anti-rabies vaccination」で通じますので覚えておくといいでしょう。
ワクチンは日本語と同じ発音ではなく「ヴァクシン」となりますので注意しましょう。
7.の暴露後連続ワクチン接種を日程の都合で最後まで受けれない場合は、使用したワクチンの種類、接種した日時、今後の接種予定日をドクターにしっかり確認し、日本に帰国してから病院に行き、それを医者に見せて最後まで完了するようにしましょう。